咳が長く続く患者さんを診ていると、
「咳喘息なのか?感染後咳嗽なのか?それとも喘息?」
と迷うケースは本当に多い。
こうした時に役立つのが FeNO(呼気NO:fractional exhaled nitric oxide) です。
呼気中のNO(窒素酸化物)は、
気道の好酸球性炎症の強さをリアルタイムで反映する 指標であり、
診断にも治療の選択にも使える “非常に優れたバイオマーカー” です。
ここでは、専門性を保ちながら、できるだけわかりやすく解説します。
■ FeNOとは?
呼気に含まれる NO(一酸化窒素) の量を測定したもの。
- 気道上皮の iNOS(誘導型NOS) から産生される
- IL-4 / IL-13 など 2型炎症 の刺激で増える
- 好酸球性炎症があると高くなる
つまり、
FeNO=気道の好酸球性炎症の強さを示す “炎症のリアル値”
と理解するとわかりやすい。
■ 正常値とカットオフ
日本人の成人では以下が知られている(PDFデータ):
- 平均:15.4 ppb
- 正常上限:36.8 ppb(目安は 35〜37ppb)
臨床的には、
ステロイド未治療かつ症状がある時、
✔ 咳喘息・喘息の診断カットオフ=22 ppb(感度・特異度が高い)
さらに 鼻炎の有無・喫煙の有無 で最適カットオフ値が変動することも示されている。
■ FeNOが上がる理由(気道炎症のメカニズム)
気道上皮は、アレルゲンやウイルスなどで傷害を受けると、
- IL-33 / TSLP / IL-25(アラーミン) を分泌
- ILC2 を活性化
- IL-4 / IL-5 / IL-13 を産生
- 好酸球が集まってくる
- iNOSの発現が増えてNOが多く産生される
結果、呼気中のNOが高くなる。
喘息の背景にある炎症シグナルを “見える化” したものがFeNOといえる。
■ FeNOが咳の鑑別に強い理由
咳の原因は様々ですが、特に 咳喘息・喘息・感染後咳嗽 の鑑別は難しい。
この3つは“見た目の症状が似ている” ため、症状だけで区別するのはほぼ不可能。
そこでFeNOが役立つ。
■ 【重要】疾患別のFeNOの特徴
① 気管支喘息
- 中等度〜高度上昇
- 50ppb以上で“制御不良”を示唆
- 治療抵抗性なら高値が続きやすい
- 好酸球・IgEなど他の指標と一緒に評価
→ 高値ほど炎症が強く、増悪リスクが高い
ただし、非2型炎症の喘息ではFeNOは上がらない
② 咳喘息(CVA)
- 多くが 22ppb以上
- 好酸球性炎症あり
- ICS(吸入ステロイド)で改善しやすい
→ FeNO高値=咳喘息を強く示唆
③ 感染後咳嗽(post-infectious cough)
- 正常〜軽度上昇(10〜25ppb)
- 好酸球性炎症なし
- 神経過敏化が主体
→ FeNOが高くならないことが鑑別ポイント
④ 後鼻漏(PND)・副鼻腔炎
- 基本正常
- 気道炎症ではなく刺激性咳
- 高値なら合併症(喘息など)を疑う
⑤ GERD(逆流性食道炎)
- 正常
- 気道炎症とは関係がない
■ FeNOが高い時・低い時の臨床的解釈
✔ 高値(50ppb以上)
- 非制御の好酸球性炎症
- ICSアドヒアランス不良
- 吸入手技不良
- アレルゲン暴露
- ステロイド抵抗性
✔ 中間値(25〜50ppb)
- 不安定な気道炎症
- 咳喘息や喘息初期でよくある
✔ 低値(25ppb未満)
- 非好酸球性炎症(感染後咳嗽など)
- GERD・PND
- 非2型喘息の可能性
■ FeNOの落とし穴と“誤解”
FeNOは素晴らしい検査だが、以下の影響を受ける:
- 喫煙 → 下がる
- 好酸球性鼻炎 → 上がる
- ステロイド治療中 → 下がる
- アレルゲン暴露中 → 上がる
そのため 単独では診断せず、症状とスパイロと組み合わせて評価 することが重要。
■ 吸入薬の選択にFeNOを使う
FeNOの最大の価値は…
患者ごとに “本当に効く吸入薬” を選べること
ICSが効きやすいのは “好酸球性炎症” のとき。
つまり、
- FeNO高い → ICS効果が高い
- FeNO低い → ICS単独では効かない可能性
という臨床判断が可能になる。
■ “検査せず吸入薬を出す” 診療への違和感
ここで少し本音を書きます。
咳や喘息の治療では、
“なんとなく吸入薬” を処方して終わり という診療が驚くほど多い。
しかし吸入薬は、
- 炎症のタイプ
- 好酸球の有無
- FeNOの高さ
- スパイロの変化 によって 最適な種類がまったく違う。
👉 一回吸って良くなった=治った
👉 とりあえずICS/LABAを出して様子見
では、適切な治療とは言えない。
当院ではFeNO・スパイロ・アレルギー評価を組み合わせ、患者ごとに“本当に合った治療”を選ぶことを大切にしています。

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