最新の統計データ(HF STATS 2025)が、我々循環器内科医にとって極めて厳しい現実を突きつけてきました。生涯で心不全を発症するリスクは24.2%。つまり、日本人の約4人に1人が人生のどこかで心不全という終着駅に辿り着くということです。
しかし、私が本当に深刻だと感じているのは、この「24%」という数字そのものではありません。
確立された治療法が、なぜ現場で「放置」されているのか
この報告書で最も目を引くのは、治療の大きな乖離です。心不全、特に左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)において、その生存率を劇的に改善させることが証明されている「Fantastic Four(ファンタスティック・フォー)」と呼ばれる4つの薬剤。これらを適切に併用できている患者は、適格者のわずか25%にも満たないという事実です。
臨床現場では、往々にして「今は安定しているから」「血圧が少し低いから」といった理由で、従来の古い処方が漫然と続けられます。しかし、心不全における「安定」は、しばしば「緩やかな悪化」の別名に過ぎません。
最新のエビデンスが示す4剤(ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)を早期に、かつ躊躇なく導入すること。これが、再入院を阻止し、患者の寿命を延ばすための唯一と言っていい論理的な正解です。武器があるのにそれを使わないのは、我々医師側の「臨床的惰性(Clinical Inertia)」と言わざるを得ないでしょう。
老化という言葉で、心臓の悲鳴をかき消さないために
患者さんやご家族にお伝えしたいのは、「息切れ」や「むくみ」を安易に加齢のせいにしないでほしいということです。
心不全は一度入院を経験するたびに、心機能が階段を下るように一段ずつ、確実かつ不可逆的に低下していきます。大切なのは、悪くなってから対処することではなく、「悪くなる前に、最強の布陣で守り固める」という視点です。
現在、心不全と診断されている、あるいは心臓に不安を抱えている方は、ご自身の治療が「2026年現在の世界基準」に照らして最適化されているかどうか、一度立ち止まって確認してください。当院(HMCL)では、この「4人に1人」という厳しい確率論に対し、最新の知見を総動員して、一人ひとりの人生を守るための戦略的な医療を提供していきます。


コメント