PCI(ステント治療)を説明していると、時々こんな質問を受けます。
「私、ピアスとかでかぶれやすい体質なんですけど…
心臓の中に金属を入れて、本当に大丈夫なんですか?」
気持ちはよく分かります。
皮膚に使うアクセサリーでさえかぶれる人が、心臓の血管の中に金属を入れると言われたら、不安になるのは当然です。
そして実は、この不安には一理あります。
今日は、循環器専門医として
「ステントと金属アレルギー」について、知っておくべき“本当の話” をまとめてお話しします。
■ 結論:金属フリーのステントは存在しない。でも「アレルギー性再狭窄」という現象は実在する
まず押さえておきたいポイントはこれです。
✔ ステントはすべて「金属」でできている
✔ そしてどの金属にも、多少なり「ニッケル」が含まれる
✔ 金属アレルギーが原因で起こる“再狭窄(ISR)”が報告されている
ステントは血管内に残る異物なので、体質によっては 炎症 → 肉芽が盛り上がる → 再狭窄 という反応が起きるケースがあります。
皮膚のアレルギーのように“ぶつぶつが出る”わけではなく、
問題は血管の中で静かに炎症が起きること。
理解しておくべきなのは、
「金属アレルギー=ステント禁止」ではないが、
アレルギー体質の方は、再狭窄リスクが少しだけ高くなる可能性がある。
という点です。
■ なぜステントでアレルギーが起きるのか?
鍵は「ニッケル」と「クロム」
現在世界中で使われているステントは、どれも “合金(いくつか金属を混ぜた素材)” で作られています。
その中でアレルギーを起こしやすい金属の代表が ニッケル。
実は、ステントの素材として最も使われている コバルトクロム合金(Co-Cr) にも、
約10%前後のニッケルが含まれる のです。
つまり…
「ニッケルが入っていないステントを使ってください」
という注文は、現実にはほぼ不可能 です。
■ 主要ステントの「素材比較」一覧
読者が一番驚く部分です。
メーカーごとに一覧にするとこうなります。
| メーカー | 製品名 | 主な素材 | ニッケル含有 | 補足 |
|---|---|---|---|---|
| Abbott | Xience | Co-Cr(L-605) | 約10% | 世界シェア最大。腐食しにくく安定。 |
| Terumo | Ultimaster | Co-Cr(L-605) | 約10% | 日本製。生分解性ポリマー採用で炎症抑制。 |
| Boston Scientific | Synergy / Promus | Pt-Cr | ニッケル含有 | 視認性良い。薄くしやすい素材。 |
| Medtronic | Resolute Onyx | Co-Cr外殻+Pt芯 | 含有あり | 金属量を減らしつつ耐久性を確保。 |
✔ 結論:すべて“合金”なので、ニッケルやクロムがゼロの製品は存在しない。
ただし、
“溶け出しにくい(腐食しにくい)素材を選ぶ” ことはできるため、
専門医は患者さんの背景を見てステントを選択しています。
■ 一番怖いのは皮膚炎ではなく「再狭窄(ISR)」
金属アレルギーが関わると“血管の中で炎症が進む”
皮膚がかぶれる人は多いですが、
PCI後に全身の湿疹が広がるケースは極めて稀です。
ただし、問題はここではありません。
患者が一番恐れるべきなのは
ステント内部で炎症が起き、肉芽が盛り上がって再狭窄になるケース。
アレルギーが関与したステント内再狭窄(Allergic ISR)は、
過去の症例報告や研究でも議論されています。
■ では実際どうすればいい?
→ 「パッチテスト」「ステント以外の選択肢」など、患者が取れる行動をまとめる
ここが読者の“救い”のパートです。
① 予定手術なら、皮膚科で「金属パッチテスト」を
特に、
- ニッケル
- クロム
- コバルト
は要チェック項目です。
待機PCIなら、1〜2週間の余裕があるケースが多く、十分間に合います。
陽性だった場合は、医師と治療方針を再検討できます。
② ステント以外の治療という選択肢もある
実は、PCI=ステントではありません。
● (A) 金属を残さない治療:DCB(薬剤コーティングバルーン)
狭い部分を風船で広げ、
その表面についた薬だけを血管に染み込ませて
風船は回収して終わり。
→ 体の中に金属が一切残りません。
適応は限られますが、アレルギー体質の方では非常に有力な選択肢です。
● (B) バイパス手術(CABG)
自分の血管(内胸動脈・橈骨動脈など)を使う治療なので、
金属アレルギーの心配はゼロ。
多枝病変や重症例ではむしろCABGの方が予後が良いケースも多いです。
③ “すでにステントを入れてしまった後”に気をつけたい症状
ステントを入れたあと、
- 胸痛が数ヶ月後に再発
- 謎の皮膚炎が全身に広がる
- 以前より疲れやすくなった
こういった症状はアレルギー性再狭窄の可能性もあります。
もちろん他の原因の方が多いですが、
「体質的に金属が合わない」可能性はゼロではありません。
気になる症状があれば、遠慮なく相談してください。
■ 専門医としての本音:命を救うのが最優先。でも、“知識”があなたの身を守る
PCIは緊急治療になることもあり、
その場で「金属アレルギーが…」と冷静に検討できないこともあります。
特に心筋梗塞では、
救命が最優先であり、ステント以外の選択肢が取れない こともあります。
ただし、
予定手術であれば、あなたの体質を考えた上で治療戦略を選ぶことができます。
医師は“最も安全で確実な道”を常に考えています。
そして患者さん側も、自分の体質を知ることでリスクを減らせます。
■ まとめ:ステント治療は安全。でも“体質”を知っておくともっと安全になる
今日のポイントを簡単にまとめると、
- ステントはすべて「金属」でできている
- ニッケルをゼロにすることは不可能
- 金属アレルギーが原因の「再狭窄」は医学的に報告されている
- 予定手術ならパッチテストが有効
- 陽性なら「DCB」や「CABG」という選択肢がある
- 入れた後の胸痛や皮膚症状は要相談
ということです。
PCIは命を救うための非常に優れた治療ですが、
あなたの体質を知ることで、治療後の不安はさらに減らせます。
不安なことがあれば、どんな小さなことでも相談してくださいね。
情報源
厚生労働省・PMDA「冠動脈ステントの添付文書(各社)」
日本循環器学会「冠動脈疾患の主要診断治療ガイドライン」
J-STAGE「金属アレルギー関与が疑われたステント内再狭窄症例報告」
ASTM International (規格番号 F90: L-605 コバルトクロム合金の組成基準)


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