前回の記事で、心臓を守る4つの基本薬(Fantastic Four)についてお話ししました。
これらは本当に素晴らしい薬で、多くの患者さんが救われています。
しかし、現場にいるとどうしても悔しい瞬間があります。
「先生、言われた通り薬は全部飲んでいるのに、また苦しくなってしまいました…」
そんな言葉とともに、半年も経たずに再入院となってしまう方がいます。
ご本人だけでなく、ご家族も「もうこれ以上、手はないのでは…?」と落ち込まれてしまう。
私たち専門医にとっても胸が痛む場面です。
今日は、そんな “守るだけでは足りない時” に使う、
5番目の切り札 についてお話しします。
■ 守るだけでは足りなくなる瞬間がある
これまで紹介した基本の4つの薬は、ほとんどが“防御”の薬です。
- 心臓の負担を減らす
- 血圧を下げる
- ホルモンの悪循環を抑える
- 余分な水分を調整する
つまり 「心臓を守る薬」 です。
しかし、心不全が進んでくると、
心臓の細胞そのものが “エネルギー切れ” を起こします。
例えるなら、
ガス欠の車を後ろから必死に押している状態。
どれだけ外から守っても、
“エンジンの火そのもの” が弱ってしまうと、
心臓はもう前に進めなくなってしまうのです。
■ そこで登場した「5番目の薬」ベリキューボ(ベルイシグアト)
この薬のコンセプトは、他の4剤と全く違います。
簡単に言えば、
弱りきった心臓のエンジンに、もう一度“火をつける”薬。
心臓の細胞には、
「動け」という信号を受け取るスイッチ(sGC)があるのですが、
重症の心不全ではこのスイッチが錆びついて反応しにくくなります。
ベリキューボは、
このスイッチを 直接オンにして“心臓よ、もう一度動け”と後押しする 作用があります。
その結果、
今まで反応しなかった心臓が効率よく血液を送り出せるようになるのです。
■ 誰でも使えるわけではない。「切り札」だからこそ使い所が大事
ベリキューボは、“困った時の5番手”として位置づけられています。
🔍 どんな人が対象?
- 4つの基本薬をしっかり使っている
- それでも 最近(半年以内)に入院が必要になった
- 点滴治療が必要になるほど悪化したことがある
こうした患者さんで効果が証明されています。
■ エビデンス:VICTORIA試験の強い結果
この薬を投与することで、
● 再入院
● 心不全死
これらのリスクが 有意に低下 しました。
心不全における「入院」は、
単なる“イベント”ではなく 心臓の寿命を縮める警告 です。
だからこそ、
“入院の連鎖を断ち切る” という意味で
この薬の価値はとても大きいのです。
■ 専門医は「まだ手がある」と知っている
一般の内科では、
4つの薬を使っても改善しない場合に「もう難しいですね」と言われてしまうことがあります。
でも、循環器の専門医はそこで諦めません。
✔ 4つがダメなら、5つ目がある
✔ 飲み薬がダメなら、次の手がある
✔ それでもダメなら、さらに別の選択肢がある
心不全治療はここ数年で進化し、
“終わり”ではなく“次の一手”を用意できる時代 になりました。
入退院を繰り返していると、
どうしても「もう歳だから」「仕方ないか」と弱気になってしまいがちです。
でももし、
「最近また入院した」
「点滴が必要になるほど悪くなった」
そんな状況なら、一度ご相談ください。
あなたの心臓には、
まだ切っていない“5枚目のカード”が残っているかもしれません。


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