感染後咳嗽とは?

感染後咳嗽とは?風邪の後に咳だけ続く理由と咳喘息との違いを専門医がわかりやすく整理

「風邪はとっくに治ったのに、咳だけずっと残っている」

「コロナが治って数週間経つのに、まだ咳が出る」

こうした“咳だけ長引く”状態の多くが 感染後咳嗽 です。

外来では非常に頻度が高く、特に 近年はCOVID-19後に咳だけ続くケースが明らかに増えています。

今回は、感染後咳嗽の病態・特徴・治療・咳喘息との違いを専門医の視点でまとめます。


■ 感染後咳嗽とは?

感染後咳嗽とは、『風邪・上気道炎・COVID-19 などの感染が治った後に、咳だけが 3 週間以上続く状態』を指します。

特徴は:

  • 乾いた咳が多い
  • 3〜8週間続くことが多い
  • 自然軽快の傾向はあるが、QOLを大きく下げる
  • 胸部X線・スパイロは基本“異常なし”

日本内科学会誌のレビューでも、遷延性咳嗽の19%が感染後咳嗽 とされています。


■ なぜ咳が長引くのか(病態のポイント)

感染後咳嗽は “気道の神経過敏化(sensory neuropathy)” が中心にあります。

① 気道上皮の障害

ウイルス感染により気道粘膜が傷み、知覚神経がむき出しの状態になる。

→ ほんの少しの刺激(冷気・話す・乾燥)で咳が誘発される。

② サブスタンスPなど咳反射物質の増加

ウイルス感染のあと、気道では サブスタンスP という物質が増えやすくなります。

サブスタンスPは「咳受容体を興奮させるスイッチ」 のような働きをするため、少しの刺激でも咳が出やすくなるのが特徴です。

通常は体内で分解されるのですが、感染後は

分解酵素が弱り、サブスタンスPが長く残る → 咳が続く

という仕組みが知られています。

③ ヒスタミン代謝の低下

感染のあと、気道では ヒスタミンを分解する酵素の働きが落ちる ことがあります。

ヒスタミンは“かゆみ” や “くしゃみ” を起こす物質 として有名ですが、

実は 気道の咳受容体を刺激して咳を誘発する作用 もあります。

そのため、感染後はヒスタミンが高まり、

乾燥・冷気・会話などの軽い刺激でも咳が出てしまう状態 になりやすいのです。

④ カプサイシン咳感受性が亢進

感染後はカプサイシン(咳刺激)に対する反応が通常より強くなることが報告されています。


■ 【COVID-19後に咳が長引く理由】

近年特に多いのが コロナ後遷延性咳嗽

理由は以下の複合です:

  • COVID後は 咳受容体の過敏化 が強い
  • 上気道粘膜の修復に時間がかかる
  • 長引く鼻炎・後鼻漏が多い
  • アレルギー発症・悪化が重なる例もある
  • 一部は“微小な気道炎症”が残る(FeNOは正常〜軽度上昇)

COVID-19後に「1ヶ月以上咳で悩む」人が増えているのは臨床をやっていて本当によく感じます。


■ 咳喘息との違い

感染後咳嗽と咳喘息は症状が似ていますが、悪化の“仕方”と“反射の速さ”が少し違います

① FeNO

  • 感染後咳嗽:正常〜軽度上昇(10〜25ppb)
  • 咳喘息:上昇(多くが22ppb以上)

② ステロイド反応性

  • 感染後咳嗽 → ICSは効きにくい
  • 咳喘息 → ICSが効果的

③ 気道狭窄の有無

咳喘息:軽度閉塞が見えることあり

感染後咳嗽:スパイロ正常

④ 増悪パターン・刺激に対する反応

感染後咳嗽

  • 話し始めて 1〜2語でカッと出る
  • 外に出た瞬間の冷気で反射的に咳
  • におい・乾燥にも即反応
  • 咳は“浅くて鋭い”

咳喘息

  • 長く話すと咳
  • 冷気で徐々に悪化(数分後)
  • 咳は“深くて連続性”
  • wheezeが出ることもある

■ 実は「両者が混在する」こともある(臨床の現実)

ここが最も専門的であり、

外来で診療する医師として絶対に知っておくべき部分です。

✔ 感染後咳嗽と咳喘息は“排他的”ではない

✔ 病態が連続して移行することがある

✔ 特にコロナ後は境界が曖昧になりやすい


① 感染後咳嗽 → 咳喘息へ移行する例

  • 風邪後の咳が長引き
  • 3〜4週後にFeNO上昇
  • 夜間増悪
  • スパイロで軽い閉塞 → 最終的に咳喘息と診断

よくあるパターンです。


② “両方の要素を持つ中間型” も存在

  • FeNOは軽度上昇(25〜35)
  • 夜間咳は少し強い
  • でも会話や冷気でも反射的に咳が出る

■ 診断の流れ(外来での実際)

感染後咳嗽の診断には、

  • A:ACE阻害薬
  • S:喫煙
  • A:アレルギー
  • H:胸焼け(GERD)
  • I:感染の既往
  • N:鼻・副鼻腔疾患

これを丁寧に確認し、胸部X線・必要ならスパイロを行い、他疾患を除外します。


■ 治療

感染後咳嗽は自然軽快する傾向がありますが、日常生活を大きく妨げるため、症状緩和は重要。

✔ 有効とされる治療

  • H1ブロッカー(アレグラ等)
  • 麦門冬湯
  • 吸入抗コリン薬(チオトロピウム等)※保険外
  • 短期間の中枢性鎮咳薬

✔ 患者ごとに組み合わせる

実臨床では、麦門冬湯+H1ブロッカー+短期鎮咳薬の3剤カクテル は有効なことが多い。

ICS(吸入ステロイド)は第一選択ではないですが、

“感染後咳嗽+軽い好酸球性炎症” の例では短期間効くこともあります。

つまり 治療が被ることも普通にある のです。


■ どれくらいで治る?

平均で 3〜6週間

長い人では 8週間以上 かかることもあります。

次の症状がある場合は他疾患を疑います:

  • 息苦しさ
  • 喘鳴
  • 発熱の再燃
  • 血痰
  • 咳が8週間以上

■ 当院での診療

感染後咳嗽は「咳喘息との区別」が最重要です。

  • FeNOで好酸球性炎症の有無を確認
  • スパイロで気道閉塞を除外
  • 必要なら胸部画像
  • 鼻炎・後鼻漏・GERDの評価

これらを総合して、

「感染後咳嗽なのか、それ以外なのか」を正確に判断します。

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