前回の記事で、心臓の血管をチェックする「カテーテル検査(CAG)」のお話をしました。
検査はあくまで“見るだけ”です。
ただ、そこで 「あ、やっぱり血管が詰まりかけていますね」 という“黒判定”が出たとき、次にどうするか。
そこで登場するのが、今回のテーマである 「カテーテル治療(PCI)」 です。
ドラマやニュースで「風船治療」「ステント治療」と聞いたことがあるかもしれません。
今日は、もし検査で「黒」と出た場合に、心臓の中で私たちが実際にどんな作業をしているのか、その“リアルな現場”の話をできるだけ怖くなくお伝えします。
■ PCIとは?──“狭くなったトンネルを内側から広げる工事”です
心臓に血液を送る冠動脈が狭くなると、
- 胸の締めつけ
- 階段での息切れ
- 夜間の胸苦しさ
といった症状が出てきます。
PCIは、 狭くなった血管を内側から押し広げ、再び血液がスムーズに流れるようにする治療 です。
例えるなら、
コレステロールで細くなった山道(血管)を、内側から補強して整備する工事。
とてもシンプルですが、効果は絶大です。
■ 血管の中で何が起きているのか(現場のリアル)
ここからは、あなたのイメージをもっとクリアにするための“実況中継”です。
● ① 髪の毛より細いワイヤーを通す
手首から入れた細いカテーテルの先に、極細のワイヤーを詰まりの向こう側まで通します。
これが“線路”になります。
● ② 線路に沿って「風船」を運ぶ
小さく折りたたまれたバルーンを狭い場所まで進め、
一気に「グッ」と膨らませます。
すると、血管の内側にへばりついたプラーク(脂の塊)が壁に押しつけられ、道が開きます。
● ③ しかし、このままでは“元に戻る”
風船を抜くと、血管がゴムのように ボヨンと縮む ことがあります。
せっかく広げても台無しです。
● ④ そこで「ステント」の出番
ステントとは、極薄の金属でできた網目状の筒。
これをバルーンに載せて広げ、 血管の中で“突っ張り棒”のように支える のです。
風船を抜いても、ステントだけがその場に残り、
血管を内側からずっと支え続けます。
■ ステントは“一生入れたまま”でも大丈夫?
患者さんに最もよく聞かれる質問です。
→ 結論:全く問題ありません。
- 錆びない
- MRIも基本OK
- 感覚は全くない
- 数ヶ月で血管の壁と一体化する
そして昔のステント(BMS)と違い、今のDES(薬剤溶出性ステント)は格段に優秀で、
再狭窄率は5〜10%程度まで低下 しています。
「昔はまたすぐ詰まったらしいじゃない?」と言われることがありますが、
今のステントは別物です。
■ “金属を入れない治療”という選択肢もある(DCB)
これは少し専門的ですが、患者さんが聞くと安心する最新の話です。
条件が合えば、
ステントを入れずに“薬を塗った風船(DCB)だけ”で治す ケースがあります。
風船で薬だけ血管に染み込ませ、金属は残さない。
Nothing Left Behind(何も残さない治療)
と呼ばれ、今非常に注目されている治療です。
■ 手首からできる時代──「痛いのでは?」という不安を軽くする話
昔は太ももの付け根から入れていたため、
- ベッド上で数時間動けない
- 尿道カテーテル
- 出血リスクが高い
など大きな負担がありました。
今は 手首(橈骨動脈:TRI) が主流。
さらに進んだ施設では 手の甲(dTRA) も使います。
メリットは圧倒的です。
- 検査後すぐに歩ける
- トイレにも行ける
- 出血が非常に少ない
実際、治療後に患者さんが
「え、もう終わったんですか?」
と驚かれることがよくあります。
■ 「見つけたら全部治す」時代は終わりました
→“数値で治すべき場所だけをピンポイントで治す”時代へ
治療の一番大事なところはここです。
昔は「狭く見える=全部広げる」という時代でした。
しかし今は違います。
見た目ではなく、“実際に血流が落ちているか(FFR/iFR)”で判断する。
・見た目は狭いのに血流は十分 → 触らない方が長期予後が良い
・見た目はそこそこでも血流が落ちている → ステントが有効
これは ISCHEMIA試験 などで明らかになった、非常に重要な科学的知見です。
私たちは「見た目」には騙されません。
数値で証明された“治すべき場所だけ”を治します。
これが専門医の矜持です。
■ PCIの目的はただ1つ
“心筋梗塞になる前に、未来の自分を救うこと”
心筋梗塞が起きてしまえば、
どれだけ腕の良い医師が治療しても、
心臓の筋肉は死んでしまう部分が必ず出ます。
でも、
その一歩手前で狭窄を見つけ、PCIで広げておけば、
心臓は無傷のまま大きな事故を避けられます。
これは未来の心筋梗塞を防ぐための、
“先行投資”のような治療 と言えます。
■ 結論:PCIは“怖い治療”ではなく、“未来を守る治療”です
少し怖い響きのある治療ですが、
- 胸の痛みを消す
- 心筋梗塞を防ぐ
- 突然死のリスクを下げる
- 日常生活を取り戻す
PCIの目的はすべて、
あなたの未来を守るため です。
必要だから提案していますし、
必要でない人には絶対に勧めません。
どんな小さな不安でも大丈夫です。
いつでも相談してくださいね。


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