「とりあえず薬を出しておきます」では守れない。心不全治療は“あなたに合わせる”オーダーメイド医療です

循環器

心不全治療は、実は「人によって薬がまったく違う」ことをご存じでしょうか。SGLT2阻害薬・β遮断薬・MRAなど、複数の“心臓を守る薬”がありますが、年齢・不整脈歴・生活スタイル・心臓のタイプ(HFrEF/HFpEF)によって最適解は変わります。この記事では、専門医が診察室で実際に薬を選ぶときの思考回路を、できるだけわかりやすくお伝えします。


1. 教科書と現場の「ギャップ」を埋めるのが仕事

まず、誤解されがちな「利尿薬(おしっこを出す薬)」についてです。 医学の教科書やガイドラインには、「利尿薬は寿命を延ばす効果はない」と書かれています。

これをそのまま鵜呑みにすると、「じゃあ、飲まなくてもいい薬なんですか?」となってしまいますよね。 でも、現場は違います。

心不全が進行していく、浮腫みや胸水貯留がでてきます。実際にその症状を改善するには利尿剤は必要なんです。

最近は情報を調べてきていただく家族も多いですが、心不全の治療には利尿剤は必要な時使います。
ただし、何でもかんでもというわけではなく、状態によっては心保護薬が優先されます。


2. 本当の勝負は「症状が出る一歩手前」

心不全治療で私が最も大切にしているのは、「まだ症状が出ていない段階(ステージB)」での治療です。

  • 心臓の形が少し変わってきた
  • 心臓の動きが少し硬くなってきた

ご本人は元気でも、心臓は静かにSOSを出しています。 この段階で、いかに適切な「心保護薬」をスタートできるか。 これが、5年後、10年後も元気に旅行に行けるか、それとも入退院を繰り返す生活になってしまうかの分かれ道になります。


3. 「昔はβ遮断薬一択でしたが…」今はパズルが複雑です

ここからが、少しマニアックですが大切な話です。 「心保護薬が大事だから」といって、何も考えずに全員に同じ薬を出せばいいわけではありません。

例えば、今は心不全を大きく2つに分けて考えます。

  • HFrEF(ヘフレフ): ポンプの動きが悪いタイプ
  • HFpEF(ヘフペフ): 動きは良いけど、心臓が硬いタイプ

昔は「動きが悪い(HFrEF)」が主流だったので、「心臓を休ませるβ遮断薬」が絶対的なエースでした。 しかし、今は高齢化で「心臓が硬い(HFpEF)」患者さんが増えています。こうなると、β遮断薬だけでは太刀打ちできません。


4. 専門医の頭の中:ある日のシミュレーション

では、実際にどう薬を選んでいるのか。私の頭の中の「迷い」と「決断」を少しだけお見せします。

例えば、「心臓が硬いタイプ(HFpEF)」で、食が細く、体力が低下している(フレイル気味の)ご高齢の患者さんがいたとします。

「今のガイドライン通りなら、『SGLT2阻害薬』が第一選択だ。心不全の予後改善には一番効く」 ↓

【ここで一旦ストップ!】 「…待てよ? SGLT2阻害薬は、尿から糖分(カロリー)を捨てる薬だ」

「この患者さんはただでさえ食が細く、痩せている。ここで毎日カロリーを捨ててしまったら、心臓は守れても、筋肉や体力が落ちて一気に寝たきり(フレイル)になってしまうリスクがある」

「心臓だけを見て、人を見ない治療になってはいけない」 ↓ 【方向転換】 「よし、今回はSGLT2は見送ろう。代わりに『MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)』を使おう」

「これならカロリーは減らないし、心臓が線維化(カチカチになること)するのも防げる」

「血圧も低めだから、MRAの中でも特に血圧を下げにくいタイプを選んで、慎重に開始しよう」


5. あなただけの「処方箋」を作ります

いかがでしょうか? もし教科書通りにするなら「SGLT2阻害薬」が正解かもしれません。 でも、その人の「不整脈の歴史」や「生活スタイル」まで考えると、あえて違うカード(薬)を切ることだってあるのです。

心不全の治療薬は、ただの「化学物質」ではありません。 使い方次第で、毒にもなれば、未来を守る最強の味方にもなります。

もし、「薬が増えて不安だな」「説明があまりないな」と感じることがあれば、ぜひ一度ご相談ください。

あなたの心臓の声を聞き、あなたの体に合わせた「世界に一つだけの治療プラン」を一緒に考えましょう。 「とりあえず」ではなく、「あなたのために」考え抜かれた医療を提供することをお約束します。

コメント

タイトルとURLをコピーしました